イクタケマコトのブログ

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靴べら

小学校の同級生に、いつも靴べらを持っている子がいた。休み時間は勿論、授業中も机の端に置き、体育の時もポケットに入れていた。
 
 彼と同じクラスになったのは3年生の時だった。担任の先生も黙認していたし、周りもそれが当たり前のこととして受け入れていた。なぜなら、彼はそれ以外はパーフェクトだったから。勉強、運動、性格全て良かった。そして、その靴べらをどうこうすること(本来の機能として使う事すら)もなかった。ただ、かたわらにおいて置けばよかったのだ。時々、真似して靴べらやおもちゃ等を持ってくる奴がいた。が、みな、目的が違ったので、注意されたし、本人達も飽きて長続きはしなかった。

 「どうして?」という疑問が当然ついてくる。ただ、それを聞くのはすでに野暮な感じだった。色んな噂が裏で出回ったが、すぐにかき消された。とにかく、彼はパーフェクトだったのだから。

 そんなある日、一人で下校していると、後ろから声を掛けられた。彼だった。実は、彼とはあまり話した事もなく、家も反対方向だったので、ぼくはびっくりした。が、いい奴だ。世間話をしながら、いっしょに歩いた。彼は、ぼくの家の近くにくると急に沈んだ顔になってこう言った。
「明日、転校するんだ。だから、君にこれをあげる」
そうして差し出されたものは、あの靴べらだった。僕は、意味が分からなかった。ほとんど接点もなかった僕に、そんな重大な事を打ち明ける理由と、何よりも靴べら。僕は、二重の驚きと悲しみとで混乱し泣いてしまった。どのくらいそうしていたか分からない、気がつけば彼も泣きながら、ずっと僕に靴べらを差し出していた。

 次の日、彼が転校した事が告げられ、みなは騒然としていた。彼は、泣くのをこらえながら別れの挨拶した。ただ、その間、僕の方を1度も見なかった。

その靴べらは、実家の引き出しにまだある。

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